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アジア海洋映画祭(2005.09.2~3) [映画祭]

今年初めての試みらしいが、アジアの、しかも海に関する映画を集めた映画祭が幕張で開催された。千葉には馴染みがないためちょっとした旅行気分で出かける。東京駅からの京葉線は心なしかアジア系の人が目立つようだった。
さて、一本目はタイ映画『タルームプック/迫りくる嵐』(2002.ピティ・チャトゥパット監督)。両親の反対と宗教の違いによって引き裂かれる男女、サキナとプラオの物語は典型的なメロドラマなのだが、とにかくすごいのは音楽の喚起力。それはたいして感動的でない場面でもその音楽のみによってこちらの気持ちが掻き立てられ落涙してしまうほどのもので、そんな経験は初めてのことなのだった。実際に1962年にタルームプック岬を襲い一万人以上の被害者を出した大嵐を再現した終盤近くの嵐のシーンは、迫力に息を呑む。
二本目は中国映画『海鮮』(2001.チュー・ウェン監督)。自殺を考えた娼婦をカメラの中心に据えて始まるこの映画は、しかし最初想像していたような息の詰まるものではなく、むしろゴダールやガレルを連想させる静謐な雰囲気を漂わせ、彼女を娼婦だと見抜いた警官がからんでくる頃から、俄然面白くなってくる。投げやりなところが愛らしいシャオ・メイが映画の中で確かに生きているのが感じられ、それがこの映画の不思議な魅力になっている。85分という短い映画のため、ラストははっきりとした結論があるものではないのだが、そこがまた気に入る。ティーチ・インで監督に質問することができました。曖昧な質問にも丁寧に答えてくれた朱文監督はとても聡明そうな方で、すっかりファンに。
日曜日の一本目も中国映画『緑の帽子』(2004.リウ・フェントゥ監督)、これは今年の香港国際映画祭で話題になったらしく、今まで一番客が多く地面に座り込む人が出るほどの盛況ぶり。冒頭の海のシーンから銀行強盗、店の主人を銃で脅し立て篭もるまでの一連のシーンは、確かに破天荒な才能を感じさせワクワクするが、後半視点が警官に移り彼の性の悩みや奥さんの浮気の話になると、前半がいいだけに映画自体が失速したような印象を受ける。しかし映画以上に驚いたのがティーチ・インで、監督ではなくまだ若そうな女性のプロデューサーが出席したのだが、「この映画の中の中国語は汚すぎて観客に失礼。ここで上映するようなものではない」としつこく主張する中国系の女性、「何故中国にはもっといい面があるのにそれを描かないで悪い面ばかり描くのか」と主張するこちらも多分中国系の男性、などが続出し会場は少し険悪な雰囲気に。私は中国の人って愛国心が強いんだなぁとつくづく思う。だって例えばパリのシネマテークで今時の日本の若者の汚い言葉が満載の映画を上映したとて、「これは今の日本とは違う」なんて弁明、しないよ。そんな愛国心、ないよね。勿論異国生活が長くなると孤独感から故郷を美化し、表象としての日本が先走りしてしまうことはあり得ることで絶対ないとは言い切れないかもしれないけど・・。しかし主催者側も日本人向け以外のプレゼンテーションを念頭に置く時期に来ているのかもしれない。
気を取り直して二本目はフィリピン映画『もう一度』(2004.ジェフリー・ジェトゥリアン監督)、冒頭で今年の一月に冒頭だけ見たフィリピン映画であることに気付く。もう少しシリアスな映画を想像していたのだが、その冒頭に出てくる珊瑚礁のようにとても綺麗で、でも少し綺麗過ぎるかなぁとも思う。フィリピンでは映画賞各章を総ナメにしたそうで、いい人ばかりが出てくるドラマに感動まで至らなかった私はフィリピンの人たちに較べやはり何か汚れてしまっているのだろうかと少し考え込む。でもフィリピン売春ツアーに参加する日本人男性の実態、その中でもフィリピン女性を買いにきて、恋をしてしまい結婚を申し込む初老の日本人男性が比較的きちんと描かれていることはやはり評価すべきことかと思う(多分映画に登場するのは初めて?)。みんないつも愛を求めているのだから、どこで愛が見つかったって驚くべきことではないのだ。海を初めとする、フィリピンの自然の美しさもいつまでも心に残る。
この映画祭のプログラミング・ディレクターを務めたT氏をつかまえて少しお話しする。帰途はさすがにくたくただったが、帰宅し眠りにつく瞬間、小さい時海水浴に行って眠るその晩、まだ波の中で揺られているような気がした、あの感覚と同じ感覚を味わう。今年の夏は過労によるダウン、入院騒ぎなど、とかく体力と経済力がいる映画道のこと、これから先も進めるのどうか一瞬暗雲が立ちこめたのだったが、わざわざ日本にきてお話を聞かせてくれた監督やプロデューサーのみなさん、映画祭のスタッフのみなさん、素敵な海と夏を有難うございました。


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