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ミュージカル李香蘭(2005.09.14) [ミュージカル]

私は李香蘭については何も知らなかったし、なので当然何の思い入れもなかった。劇団四季の「ミュージカル李香蘭」を観たいと思ったのは、朝日新聞で連載している莫邦富さんが、昨今の日中の緊張関係で苛々としていたが、「ミュージカル李香蘭」を観て、日本軍が中国にどんなに残虐なことをしたかがちゃんと描かれていて大分溜飲が下がったというようなことを書いていて、中国人の溜飲を下げるミュージカルとは一体どんなものなのだろうと観てみたくなったのである。
大体私はミュージカルを観るのは初めてなのだ。勿論映画のミュージカルは何本か観ているが、それも『シェルブールの雨傘』や『ロシュフールの恋人』(ミシェル・ルグラン!!)が印象に残っているくらいで特に好きなわけでもなかった。ミュージカルのS席一枚で何本映画が観れるだろうと計算すると(6本くらい?)後者に傾くのは当然のことだし、今回もミュージカル好きの母の資金援助でなんとかS席を確保することができたのだった。
行くことが決まってからは四方田犬彦氏の李香蘭と原節子に関する著作「日本の女優」を読み、歌姫であり女優であり、中国、日本、アメリカとどこにいても名前を変えて活躍した李香蘭の人生を知った。ただこの本の冒頭に、この「ミュージカル李香蘭」に関しての記述があり、四方田氏は「私を失望させた」ときっぱり書いているので、まぁそんなものだろうかと実はあまり期待を膨らませることもなかったのである。
しかし幕が上がり、人民服を着たたくさんの中国人たちが李香蘭を取り囲み、踊りながら(!!)李香蘭を売国奴だの裏切り者だのと責め立てる裁判のトップシーンから、私の涙腺は緩み涙が止まらなくなってしまう。人民服でくるくると踊る人たちを見ているだけで泣けてしまうというのは何の刷り込みだろう、やっぱりレスリーだろうか、それとものっけから「コロセ!!」「コロセ!!」と異様なハイ・テンションで始まった音楽と踊りの融合に、私のメロドラマ体質が反応しているだけなのだろうか。などと考える暇もなく、中国と日本が兄弟だと歌い上げるミュージカルナンバー「中国と日本」もやはり泣ける。休憩時間となりいったん幕が下がるまで私の目は乾く間もなく、涙で滲んだコンタクト越しに必死でくるくると踊り、歌う李香蘭を追い続けた。
休憩後はこちらのテンションも下がってしまったのか比較的落ち着いて観ることができた。結局裁判長が李香蘭を無罪にするラストに至っては、これで終わりかと多少物足りなさも覚えた(中国人の溜飲は下がるかもしれないが)。確かに李香蘭に思い入れがある人にとっては物足りないミュージカルであるかもしれない。しかしそれは作者側の問題というよりは、李香蘭の持っているエピソードや人生のボリュームの問題であるような気がする。単純に言って、三時間弱のミュージカルで納まるような人生を当然ながら李香蘭は送っていないのである。しかしながら戦争中日本人が陥ってしまった狂気はよく表れていると思った。その狂気の醜さと李香蘭の歌の、そして内面の美しさの対比は単純すぎるきらいはあるもののだからこそ観客によく伝わるであろう。
クライマックスも終わり幕が降りてから母が一言。「汚い舞台で(お金が)勿体無かったわねぇ。「オペラ座の怪人」ならもっと綺麗だったのに・・」「・・」そうか、人民服やチャイナ服を可愛いと思うのは私たちの世代ならでは(ウォン・カーウァイのおしゃれな映画でチャイナ服を見慣れているせい?)で特殊なことなのかなぁ、などと思いつつ「でも李香蘭の声、綺麗だったねぇ」と言うと「そうねぇ。お母さんたちはあの歌全部知ってるのよ」と母。私は思わず「中国とー日本ー。日本と中国ー」と歌いだす。本当に、中国と日本は兄弟で、たまには喧嘩しても、仲良くいれるといいのにね。

日本の女優

日本の女優

  • 作者: 四方田 犬彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 単行本


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