名付けられぬものーレベッカ・ブラウン [書評]
レベッカ・ブラウンの小説について、書こうとしたことは何度かあった。その度に止めてしまったのは、勿論少し勿体つけたということもあるのだけれど、何よりも言葉にしてしまうことに対する抵抗感が大きかったのだ。レズビアンであることを公言しているこのアメリカの作家(作者像は「ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち」で知ることができる)、しかし女同士の恋愛の機微を描くレズビアン作家などではなく、ジェンダーを超越することができる限られた一部の作家の一人であると言った方がふさわしいような気がする。
言葉にしてしまうことに抵抗感があったのは、言葉にしてしまうと一言で終わってしまうからだ、「良かった」。レベッカ・ブラウンの小説を読んでも、人間とは何か、人生とは何か、知ることはできないのかもしれない。彼女は日常生活や人生を上手く渡っていくこととはあまり関係のないことを描いている。それは、ガールスカウトで出逢った年上の彼女に胸ときめかすこと、エイズで死にゆく人たちの最後の毛布になること、愛する人の体を求めて裸のままパーティをうろつくこと、むしろ人々に眉をひそめられ、友達の一人や二人減るようなことかもしれない。感動でも、共有でも、道徳でも、友情でも、ゲームでも、罪でも、恋愛でさえない、未だ名づけられたことがないもの、それをレベッカ・ブラウンは「名づけないで」私たちに味わせる。私たちは味わうだけだ、未だ食べたことがない、極上の料理を味わったときのように、私たちは言葉を失う。
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