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命日/井田真木子 [書評]

明日はノンフィクション・ライターとして健筆を奮った井田真木子の命日だ。彼女が自ら命を絶ってからもう六年も経ってしまった。その間私は一体何をしていたんだろう。彼女の著作を全部読み直した。彼女について何か書きたいと思っている。でも思っているだけだ。自分が無力だということ、力も時間も足りないということがただ歯痒い。自分を責める気持ちと、井田を責めたい気持ちが交錯する。
井田は遺作となった『かくしてバンドは鳴りやまず』の第三章、「カール・バーンスタイン&ボブ・ウッドワード『大統領の陰謀』」でこのように書いている。「そんな彼への質問を、この何年か私は反芻し続けてきた。そしてときには口に出して言ってみた。「バーンスタインさん。もうおわりですか」と。」
私ごときが井田の口まねをすることは許されないだろうか。「井田さん、もうおわりですか。女性であること、被虐者であることにこだわって、常に彼女、彼らに寄り添って健筆を奮ってきたあなたが、ついに登場人物がほぼ男性だけである『かくしてバンドは鳴りやまず』で、本丸に闘いを挑んだのではなかったのですか。狭いながらも美しく完結していたあなたの夢が、より抽象的、高次元なレベルに高められ、花開くはずではなかったのですか。井田さん、これからだったのではなかったのですか。あなたはもっと書きたかったのではないのですか。」
そして私は何を書きたいんだろう。彼女の命が絶たれてしまった瞬間を思うだけで今でも怒りがこみ上げてくる。そんなことがあっていいはずはない。怒りによって書くことは不幸なことだろうか。そうかもしれない。でも彼女ほど深く静かに、強烈に怒っていた書き手を、私は他に知らない。

かくしてバンドは鳴りやまず

かくしてバンドは鳴りやまず

  • 作者: 井田 真木子
  • 出版社/メーカー: リトルモア
  • 発売日: 2002/02
  • メディア: 単行本


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