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2009年ベスト8(未公開作品) [映画年間ベスト10]

昨年に引き続き未公開作品のベスト8。実はこのベストが個人的には一番好きだったりする…。既にDVD発売しているものもあり、検索すれば予告編が観れるものが多い。機会があったら観てみてください。ちなみに、タイトルは原題ではなく英題。

1.DELIVER US FROM EVIL/Ole Bornedal (Denmark)
『モルグ』(1994)『ナイトウォッチ』(1997)のオーレ・ボールネダル監督の新作。今年の釜山国際映画祭のワールドシネマ部門、あとシッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭のOfficial Noves Visions Sectionのフィクション部門で上映された。
『モルグ』でヒッチコックと比較されたボールネダル監督だが、この作品に関して私はむしろ同じデンマークということでラース・フォン・トリアー監督を想起した。一番怖いのは人間だということを異常なまでの緊張感をもってデンマークの重たい空気の中で描ききった、非常に力のある作品。これが劇場公開されないなんて…と言いたいところだが、トリアー監督の新作さえ公開されない現実を前に、言っても虚しいだけか。東京国際ファンタスティック映画祭がまだあれば上映されていたのではないかと思うのだが。

2.A Step into the Darkness/Atil Inac(Turkey)
イラク北部に住む一人の女性が、アメリカによる襲撃により唯一の生存者となり、イスラム過激派グループに助けられ洗脳されていく、といった話。あくまで一人の女性の目線で戦争、過激派、テロなどを描いていて非常に価値のある作品。TIFFアジア部門で上映された『私は太陽を見た』とセットで見てほしい作品。モントリオール世界映画祭のFOCUS ON WORLD CINEMA部門で上映。

3.FATHER'S ACRE/ Viktor Oszkar Nagy (Hungary)
80年生まれの女性監督の初監督作品。Hungarian Film Week2009にて「The Gene Moskowitz Prize awarded by the foreign critics」を受賞。本年度ヨーロッパ映画賞のノミネート対象作品でもある。ストーリーは、刑務所から出てきた父と息子の亀裂を描いたシンプルなものながら、シネスコの優雅さを生かしきったような構図、光と闇を効果的に使った、映しすぎない、喋らせすぎない、抑制の効いた演出、何かが炙り出てくるような人物たちの顔、ただただ画面に見入ることの冒険と悦楽を堪能した。新しい才能の誕生を確信した1本。

4.Transmission/Roland Vranik (Hungary)
監督のRoland Vranikはタル・ベーラの「ヴェルクマイスター・ハーモニー」で助監督を務めている。冒頭から不穏な雰囲気が素晴らしい。アクシデントは突然に起こるが、何気ない各シーンにすでにそのアクシデントの萌芽が内包されているようだ。映像や構図の美しさ、斬新さは特筆すべきもの。Hungarian Film Week2009コンペティション部門出品。サラエヴォ映画祭コンペティション部門出品。ワルシャワ国際映画祭FREE SPIRIT COMPETITION部門出品。

5.PHANTOM PAIN/Matthias Emcke (Germany)
『世界最速のインディアン』の主人公みたいな男(この主人公マークはオートバイではなく自転車だが暇さえあればそれで世界中を周り、お金はないけどその人間的魅力で特に女性にモテるといった)が、交通事故で左足を失い絶望を味わうが、また義足で自転車に乗るようになるまでの話。障害を持つことがテーマになってはいるのだが、そのことはあくまで挫折の一つとして描いていて非常に自然体。それよりもマークのキャラクターを欠点を含めて描き、左足を失うことが、マークにとって何かを失うことと同時に得ることになるという描き方が非常に秀逸。
障害者が主人公だと、作る側もそれが一番のテーマになってしまうことが多いと思うのだが、それだと見る側もしんどくなってしまう場合が多いと思う。商業性(ティル・シュヴァイガーのアンソニー・ホプキンスに負けない魅力っぷり!!)を兼ね備えながら、障害を持つ人を描く場合に押さえるべきところはちゃんと押さえたバランスのよさにドイツ映画の成熟を感じた。トロント国際映画祭GALA PRESENTATIONSで上映。

6.HUSH LITTLE BABY/Hella Joof(Denmark)
リハビリセンターで一緒だった4人の女が、幼少期に虐待を受け自傷癖がある者、ヤク中から脱け出せず幼い娘に逢えない者、多発性硬化症を患う者とそれぞれの事情を抱えながら、逃避行の旅に出るロード・ムービー。
女性の生理的な感覚を非常にリアルに再現していて、そこがちょっと好みが分かれるかもしれないが、この映画はとにかくラストが素晴らしい。長い旅をくぐり抜け、それぞれに新しい風景が見えてくる(それぞれというところがとてもいい。それは全員で前向きに生きていくというような押し付けがましさがないから)。1961年生まれの女性監督の4作目。

7.LIKE IT OR NOT/Ben Verbong (Germany)
ガンで余命いくばくもないローラが、夫や三人の姉妹、両親にみとられて死ぬまでを追った話。尊厳死がテーマの作品ではあるのだが、そのテーマが決して前面に出ているわけではなく、妹がローラが病床で泣いている夜に、再会した同級生の男と情事に耽ったり、久しぶりに逢った四姉妹が笑いさざめき合っているシーンばかりが印象的な映画。死と隣り合わせの生の営みが映画を官能的に息づかせている。

8..The Days of Desire/Jozef Pacskovsky(Hungary)
おしの娘アンナがキャリアウーマンとアル中の夫婦のもとで働き始める。夫婦は娘を亡くしており、アンナを自分の娘のように可愛がるが…。ハンガリーの自然や四季を映し出した撮影が美しく、白黒で撮影したことにより寓意めいた意味が出てくる。窓や鏡を使った撮影も上手い。観た後人間の身勝手さ、他者への自己投影などについていろいろと考えさせられる。

今年も多くの優れた映画を観ることができた年であった。そして同時に「映画を観る場」についてよく考えた年でもあった。もうすでに映画マニアの人々は、劇場公開されるのを待っているだけではなく、映画祭に参加するために海外や遠方に遠征したり、未公開作品をDVDで取り寄せたりしている。アート系映画の存続の危機が叫ばれるなか、一体どうするのがいいのか。結論はまだ出ないが、来年度も色々と動きながら、自分で感じて判断していくしかないのか。来年はぜひ私も海外に足を伸ばしてみたいものだ。
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